世界と日本の風と土

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日本とイギリスで農村計画を学ぶ女子学生のブログ。いかしいかされる生態系に編みなおしたい。

アート×サスティナビリティ 「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」 一番身近な自然は自分だった

アートってよくわからないし、わからなくていいんだろうな ― 美術館に行くときの私のテンションはだいたいこんなもんです。今回のオラファー・エリアソン展も何かしら感じられたらいいなぁぐらいの気持ちだったんですが……すんごかった!!!!アートとの向き合い方が180°変わってしまいました。

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オラファー・エリアソンさんについて

実は今回の個展に行くまで、お名前すら聞いたことがありませんでした。どうやら自然現象やサスティナビリティに関する作品を多く生み出しているアーティストらしい。サスティナブルな世界観をアートにするってすごく素敵だし、アートの可能性にわくわくします。以下、ご本人のWebサイトからまとめてみました。

オラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)
1967年コペンハーゲン生まれ。幼少期をデンマークアイスランドで過ごす。現在は、ベルリンにスタジオを持ち、工芸職人、建築家、研究者、料理人、美術史家などのチームで活動している。作品のジャンルは、彫刻、ペインティング、写真、映像、インスタレーションにおよび、美術館やギャラリーのみならず、パブリックスペースの利用、芸術教育、政策立案などにも従事している。近年は、Sustainable developmentの推進に力を入れており、2012年にはソーシャルビジネスLittle Sunを立ち上げ、太陽光発電ランプを制作・販売するなど、すべての人に電気へのアクセスを拡大する必要性をうったえている。


とても幅広くご活躍されているようです。ここまでくるとアーティストといってよいのかわかりませんね。オラファーさんがなぜサスティナビリティをテーマにされているのかというのは、もっと調べないとわからないですが、きっと北極圏に近い国々で育つなかで、地球の変化を敏感に感じられてきたのかなと想像しました。

 

印象に残った作品と体験

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左)Your passing glacial morphology (past) 中央)Methane matter 右)Your passing glacial morphology (future)  2019

オラファー展に入るとまず正面に3つの水彩画。パステルカラーできれい。説明をみると、グリーンランドの氷河の氷を用いて制作されたそうで、「人間の意志とは無関係に起こる自然現象を共同制作の相手とみなすエアリソンの態度」が反映されているそうです。説明がなかったら素通りしてしまうところでした、、どうやって制作されたのか想像してみることも大事ですね。

 

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The exploration of the centre of the Sun  2017

実は入口から見えてずっと気になっていた光たち。引き寄せられるように進んでいくと、一面虹色の世界!不思議な多面体がゆっくり回りながら光をはなっています。ずっと見ていられるほど美しかった。「本作品の光と動きはソーラーエネルギーが生み出しています」だそうで、こういうところにもサスティナビリティを取り入れているんだなと感心。
なんで虹色にしたのだろうって考えてみても真意はわからないけれど、私たち人間は光の波長で色を知覚しているから、太陽がなかったらこのカラフルな世界はないんだよってことを教えてもらったような気がしました。

 

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Your happening, has happened, will happen  2020

これは楽しかった!!10個ほどのライトが壁に向けられているだけのシンプルな展示なのに、残像みたいなのがグラデーションで重なってて楽しい。「あなたが動いているときにだけ物事が見える」ほう。壁に近づいたり、遠ざかったり、手を動かしてみたり。自分の影が生きてるみたい。今、過去、未来、全部重なっているんだな。

 

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Sustainability research lab

ここにはいろんなものがごちゃごちゃと。穴をのぞいてみるってなんかそそられる(写真左奥の白い筒)。どんな世界が中に広がっているんだろうって。のぞいてみるっていう体験が楽しいんだな、オラファーさんはそういうのをよく理解しているんだろう。あと気になったのは、野菜の皮でつくった染料(写真右奥の壁)。Red onionやRed cabbageの染料で描いた水彩画は全然Redじゃなかった。不思議。

 

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Who is afraid 2004

カラフルな円が壁を行ったり来たり。天井から吊るされている3つのガラスの円盤が光に照らされている空間。ある一定の時だけ、円が重なって光の三原色のようなものが現れます。こんな風に美術の授業とか受けられたら楽しかったのにと思ったり。光や色っておもしろいんだなって感じました。

 

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Beauty 1993

光と水。暗闇の中で霧状の水に光があてられていて、見る人の立ち位置によって虹の色や形が変わるしくみ。「光があなたの目に入らないかぎり虹はどこにもない」そっか。虹って私たちの目を通してはじめて虹なんだ。自然を美しいと思えるだけの知覚や感性って、人間にもともと備わってるのかもしれない。「体験こそがこの作品の本質にほかなりません」なるほど。

 

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Sometimes the river is the bridge 2020

この展覧会のために制作されたという新作。水のさざなみが光に照らされると、形になって頭上のスクリーンに現れます。複雑な動きをみているだけで癒される。「絶えず変化しつつ徐々に広がるさざなみのような流動する状況をエリアソンは限界を超えるための欠かせない要素ととらえています」と説明にあるんだけど、流動すること(川)が何かを超えていく、向こう岸に行くために必要(橋)ってことなのかな。その何かとはなんだろう?

 

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The glacier melt series 1999/2019 2019

溶けてる。これはアートというよりも明らかな事実。かなり直接的なメッセージだ。たしかに、北極の氷が解けているって小さい頃から聞いていたし、ホッキョクグマが小さい氷の上に乗っている映像はみたことがあるけど、こうやって20年間の変化をわかりやすく見せてもらったことはなかったと思う。写真でシンプルに伝えるってすごく効果的なんだな。シンプルに直接的に表現しないといけないほど緊急性があるんだと感じた。

 

一番身近な自然は自分

こうして写真をみながら振り返ってみても、やっぱりあの空間にいないと感じられない何かがあります。自分があの中にいて初めて美しいと感じられる世界。”アートをみている” というよりも ”アートに取り込まれている” という感覚がありました。作品との相互作用が感じられたというか。オラファーさん、すごいな。自然現象を切り取ってはいるんだけど、人間を置いてけぼりにしない。


そもそも人はみんな made in Earth。自然の一部だし、自然そのものなんだな。だから、環境問題とか自然保護とかいうけれど、自分たちもそれに含まれていることを忘れちゃいけない。自分という一番身近な自然を大事にできない人が地球を大事にすることなんてできないと思った。

 

まとめ

これまで私にとってアートは、見る対象でしかなかったのですが、今回のオラファー展では ”体験するアート” という新しい感覚を得ることができました。光も水も身の回りにいくらでもあるけれど、見えていなかった世界があったんだなと。いちばん大切なことは目に見えないって星の王子さまを思い出しました。

ちなみに、目に見えない部分として、このオラファー展自体がカーボンフットプリントを極力抑えた作品の輸送、展示方法を目指したものになっているそうです。作品だけでなく展覧会のあり方そのものがサスティナビリティや気候危機へのアクションにつながっている。アート作品がどのように制作され、届けられ、共有されるのか、一連のデザインがオラファー・エリアソンさんの表現なんだと気づいたときに、アートというものが何なのか少しだけわかったような気がしました。

 

展覧会基本情報

展覧会名オラファー・エリアソン ときに川は橋となる
会場東京都現代美術館 企画展示室 地下2F(清澄白河
会期:2020年6月9日(火)~ 9月27日(日)
休館日:月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
所要時間:1.5時間
観覧料:一般は1400円/ 大学生・専門学校生・65 歳以上 1,000円/ 中高生 500円/ 小学生以下無料
公式HPhttps://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/olafur-eliasson/


■参考
開催概要(英語): https://www.mot-art-museum.jp/en/others/docs/pr_Olafur_Eliasson_EN_0109.pdf
Olafur EliassonのWebサイト(英語): https://olafureliasson.net/sometimesthebridge/